☆心意伝承研究〔心意伝研〕 | 学修塾ダンデリオン公式

心意伝承―遊働世界に生きる―
本荘雅一著

學燈社『國文學』平成19年10月【2007年第52巻12号】~平成21年6月【2009年第54巻8号】に連載されたものを一冊のまとめた自費出版のものです。

連載されたものの本文は上のリンクから閲覧できます

正し、一冊にまとめえられた本の前書きは閲覧できないので、著者の了解を得た上でこちらに掲載しました。





はじめに

 「未来の記憶」に出くわしてしまったことはありませんか?

 正確な予知とか予言といったことではありません。たとえば、「夢で自分の後ろ姿を見たら、死ぬ」と言われて、眠るのが本当に恐ろしくなってしまったことがありました。ふつうに考えて、見たこともない自分の後ろ姿など、仮に見てもそうとはわからないはずです。なのにそう言われるとつい想像してしまいませんか、自分の後ろ姿。写真で見るのはある瞬間の形態に過ぎません。想像で見るのは生きた自分の姿ですから、すでにしてわが魂が生身を辞したあとのビジョンであるわけです。


 自分の心が大昔から遺伝しているのではないか、と感じたこともありませんか?

 色とりどりのアクセサリーで、髪や耳、首周り、指、手首足首、腰回りなどを飾り立てたり、かわいいマスコット人形を愛玩する、そんな縄文人の習俗を知れば、それを自分とは無関係で異質な世界と思うでしょうか?

 時空を超えて、同じようなイメージを共有する。別に教わったわけでもないのに。

 遺伝子の中に、そうした共通心性を生じさせる物質があるのかどうかはわかりませんが、少なくとも、遺伝しているかのように、心が反応したり、ふるまったりすることは、 逃れようのない事実なのです。
 
 過去から伝わり、未来へ延びる記憶のようなイメージ。 こうした私たちの意識のふるまいを、「心意伝承」と呼びます。


 私は一介の塾講師に過ぎません。ならばこそと、研究者とは異なる立場で、「心意伝承」に関する雑感を、縷々述べさせていただきました。

「心意伝承」を考えてゆくということは、未来を拓く私たちの生き方というか、生かされ方を考えるということだ と思います。

「私たち」は歴史上、さまざまに異なったものとの融合をくりかえすことで、そのつど新しく生まれ変わり、活性化してきました。激しい変化のなかでも長く深く伝わっているものが、いわば核融合するたびに芯を磨き強くしてゆくのです。

 縄文人の火の文化と天文学に日本列島が席巻されて一万年ののち、弥生人の稲作や金属文化といった産業革命にさらされ、漢字や仏教文化を受け入れます。徴税というシステムを習得し、騎馬文化に征服されました。やがて律令と貨幣による国家マーケットの原型が産み付けられ、西欧宗教改革のあおりを受けて、戦国期の日本社会にも資本主義体制の種が準備されるようになりました。一八世紀頃から地球が寒冷化して産業の脱農化を図るうねりが西欧から巻き起こり、近代文明を装う帝国主義の潮流に地球上の各地域が次々と呑みこまれてゆきます。日本も例外ではなく比較的素早い順応性を示したものの、それでかえって近代科学の到達点のターゲットとされてしまいました。核兵器の投下です。

 そんなふうに「私たち」は生かされ、いわば侵蝕されながら異質なものを吸収し、かえって強く豊かな社会を生み出してきたのです。誕生したニュータイプには、縄文以降のさまざまな後遺症も認められます。激しく変化しながら 伝わり続けるものが感じられるのです。

 未来を拓く生かされ方の手がかりを、掘り当てたいという衝動を、抑えらずにおります。


 本書全体を貫くキーワードは三つあり、以下の場所で、一応の意味付けをしています。

「トランスフォーメーション」 ⋯⋯三一頁「トランスフォーメーション」の項。

「コンステレーション」 ⋯⋯三九頁「夢と現実のコンステレーション」の項。
 
 「遊働」⋯⋯⋯四九頁「遊働する世界」の項。


 歴史・民俗学に直接関心があるわけではないという方は、 次の順番でお読みいただけるとよいかと存じます。

  1、目次

 2,第一章 心意伝承とは何か 一衝撃の初講

 3,前掲の三つのキーワード「トランスフォーメーショ ン」(三一頁)・「コンステレーション」(三九頁)・「遊 働」(四九頁)の説明個所。

 4,第三章山水遊泳を移す生活 三水害ハザードの神性 以降

そこまでの堅い執筆態度からようやく解放されて、闊達な気分で書けるようになった転換点でした。

 最後までお読みいただけて、まだ興味をお持ちでしたら、

 5,第一章  二 兆・応・禁・呪の心意現象

以降の、飛ばした部分をお読みいただければ幸いです。

 いちばんいいのは、目次をご覧いただいて、興味関心を持ったところからお読みいただくことかと思います。几帳面に第一章から順に読まなければならないということは、まったくありません。

 それではどうぞ、私たちの遊働する世界に翻弄されつつ、お楽しみください。